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ヘリウムガスの不足に関して

追記:2013.5.9
ヘリウムガスの不足は解消されつつあります。当社ではヘリウムガスのご注文受付を再開しております。在庫に関してはこちらをご覧下さい。
風船とヘリウムガス
追記:2018.11.12
ヘリウムガスの販売は再度停止させていただきます。詳細は下記をご覧ください。
ヘリウムガスの販売一時停止について(第一報)

ヘリウムガスの不足に関して、追加の記事を書きましたのでそちらもご参照ください。
ヘリウムガスの不足に関して 追加情報
ヘリウムの性質と用途

先日のヘリウムガスの供給停止のご案内に関しまして、複数のお問い合わせをいただいております。

ヘリウムガスの供給量が不足している問題に関しましては、イギリスの科学雑誌『Nature』でも取り上げられております。

Resources: Stop squandering helium, William J. Nuttall et. al., VNature 485, 573-575 (31 May 2012) doi:10.1038/485573a

日本国内のヘリウムは、100%米国からの輸入に頼っており、今回の供給不足は、米国のヘリウム製造プラントで何らかのトラブルがあったためであると聞いております。(未確認)

ヘリウムは天然地下資源

ヘリウムは空気中にも存在します。しかし、その比率は 0.001% にも満たない極微量です。(体積比 5.24ppm)。さらに液化する温度が-273℃付近とほぼ絶対零度であることから、空気を冷却し液化分離することが難しく、それにより作ったとしても製造原価がきわめて高くなってしまうため、現時点では液化分離方式による商業生産は行われておりません。経済性がとれるヘリウムの含有量は最低でも0.2~0.3%といわれています。

それではどのようにヘリウムを得るかというと、天然ガスを採掘する際の副産物として採掘されます。天然ガスには0.5%から3%程度のヘリウムが含まれており、それを分離・精製してヘリウムを製造しています。

米国以外にもヘリウムを算出する天然ガス田は存在し、米国内のヘリウムの推定埋蔵量は全世界の推定埋蔵量の34%(2012年時点)ですが、ヘリウムの生産量でみると実に77%以上(2011年時点、2004年は84%だった)が米国で生産されています。

これは、天然ガスの採掘を行う際に、必ずしもヘリウムの抽出も同時に行われてはいないという事情が関係しています。天然ガスからヘリウムを分離するには新たな設備投資が必要であり、経済性の観点からヘリウムは分離抽出せずそのまま大気に放出されてしまっています。(このようなヘリウムの大気放出により浪費されるヘリウムは、風船を膨らませて浮かせるために使われるヘリウムの全世界の消費量よりも多いです)

米国のヘリウムに対する戦略の変更

1960年代に、米国は冷戦下においてヘリウムの戦略的価値を重視し、政府の監視下でヘリウムの備蓄を開始します。天然ガスから分離した粗ヘリウム(未精製のヘリウム)をテキサス州アマーリオ近くにあるクリフサイドガス田のブッシュドーム内の岩盤に大量に注入し、1970年代には2万トン以上(112,000,000 m3)の備蓄に達しました。

ところが、1990年代に入り、冷戦の懸念も薄れ、米国の負債が増大する中で、ヘリウムの備蓄が過大であり、一部の備蓄(600 MMcf = 1,700万m3 )を残して全て売却するという決議が米国議会でなされます。こうして1996年に制定されたヘリウム民営化法(The 1996 Helium Privatization Act)により、連邦政府はヘリウムに関するすべての資産を民間へと売却し、クリフサイドに貯蔵した大量の粗ヘリウムを売却する計画を定め、2015年の完了に向けて着々と実行されています。

しかし、この法律によってヘリウムが売却される過程には問題があり、現在のヘリウムの供給不安や価格の高騰が引き起こされていると言われています。

ヘリウム民営化法の枠組みでは、クリフサイドの大量の粗ヘリウムは、一旦、民間の企業に売却され精製されて純粋なヘリウムになります。そして、民間企業は精製されたヘリウムを国(米国土地管理局, BLM, Bureau of Land Management)に売却します。国はそうして購入したヘリウムを一般に販売します。このように、国は原料の粗ヘリウムを売って、製品化した(精製された)ものを買い戻し、それを一般に販売します。「国→民間企業→国」というステップを踏む間に、必ず利益がでるような価格で販売が行われます。また、国が民間企業に粗ヘリウムを販売する値段が、当初は市場価格の倍近い金額になっていました。その際の販売価格は、市場価格によるのではなく、それまでヘリウムプロジェクトに投資した額を回収できるような価格になるように設定されます。その価格は市場価格を大きく上回るものでした。(2013.1.17加筆修正)

このようないびつな販売スキームのため、2000年代に1Mcfあたり25ドルだった粗ヘリウムの市場価格が2010年には60ドルを超え、国が民間企業に販売する粗ヘリウム販売価格に追いついてしまった。これにより、ヘリウムの価格は年々高騰を続けることになってしまった。

国から粗ヘリウムの供給を受けるのは、パイプラインでつながっている4社に独占されており、そのような寡占状態もヘリウムの安価・安定供給を妨げている要因だと考えられています。

新興国でヘリウム需要が増加する一方で、供給力は横ばい

ヘリウムの使用量は先進国では横ばいか微減で推移しておりますが、発展途上国(特にアジア)では需要が伸びています。下記は、米国とそれ以外の国の需要の推移ですが、米国外の国での需要が1990年に比べて2008年には倍以上になっていることがわかります。

helium_demand_US_nonUS.png
([1]より)

これに対して、この需要を伸びを支えるだけの供給源の増強は追いついていないと言われています。

現在は、世界のヘリウムにおける需要と供給がほぼ一致しており、供給力に余力がない状態です。よって、世界のどこかのヘリウムプラントが事故やストライキで供給力が落ちると、途端にヘリウム不足に陥ります。米国のヘリウムプラントやパイプラインは使用開始後30年以上経過しており、故障の確率は高まっています。

・2004年 アルジェリア スキクダのヘリウムプラントで爆発事故
・2007年 米国 パイプライン故障、エクソン精製工場の修理
・2009年10月 大陽日酸 ヘリウム10%値上げ
・2010年1月 ジャパンエアガシズ ヘリウム15%値上げ
・2012年8月 米国BLM、エクソン定期修理のため輸出制限通告

国内企業の新たなヘリウム供給源の模索

これまでのところ、日本のヘリウム供給は米国のガスメジャーの方針に左右されやすいので、そのような影響のない供給源を確保する試みは、数年以上前から行われております。これまでに、実際その確保に成功しているようなのですが、まだ実際の供給にはいたってないと見られます。

・大陽日酸 米国ライレイリッジ 2011年11月稼動予定
                →2012年8月の段階でも未稼働
・岩谷産業 カタール 2013年初頭供給開始予定

日本のヘリウムの需要は減少傾向

現在はヘリウムが足りていない状態ですが、ここ数年の傾向としては日本のヘリウム需要は減少傾向にありました。これにより、供給不足気味の状態がなんとか緩和されていた状態です。

ヘリウムの需要減少は、例えば不況による国内の製造工場の海外移転や生産量の減少などによるものや、技術革新により、これまでロスしていたヘリウムのロス率の低下などがあります。

実際、病院などで使われるMRIという装置は数ヶ月に1度のペースで、液化ヘリウムの補充が必要でしたが、現在はヘリウムの蒸発を最小限に押さえる技術進歩により、数年に一度の補充で済むようになりました。

また、さらにこの先、高温超伝導の研究が進み実用化されれば、MRIやNMRなどの超低温で強力な磁場を発生させる装置は、ヘリウムを使った冷却から液体窒素を使った冷却で十分になるので、それにより一気にヘリウムの消費量が低減することが予想されます。

このように長いスパンで見れば、ヘリウムの供給不足は改善されると考えられますが、これから数ヶ月から1年程度のスパンでは依然として需要に追いつかない状況が続きそうです。

ヘリウムの用途

下の図は、日本産業医療ガス協会(JIMGA)が公表している2011年の販売実績データをもとに、ヘリウムガスの用途別の販売量を表したものです。(液体・気体に関わらず、同じ用途のものはガス換算の値を合算しました)

定期統計:特殊ガス、圧縮水素ガス、ヘリウム | 一般社団法人 日本産業・医療ガス協会

helium_usage_2011.JPG

用途 (ガス換算)
体積(千m3)
比率(%)
MRI(NMR) 2,732 23
光ファイバー 2,133 18
半導体 1,877 16
リークテスト 1,194 10
分析 939 8
低温工学 770 6
溶接 512 4
バルーン・飛行船 341 3
その他 1,552 13
合計 12,050 100
MRI(NMR)
ヘリウムの超低温を利用して金属を冷やし、超電導状態にして、そこに電流を流すことでとても強力な磁場を発生させます。その磁場と水素原子との核磁気共鳴という減少を利用して、体の内部の断面図を撮影するのがMRIという装置であり、その仕組によって、化学物質の構造を解明するのがNMRという装置です。近年は、液体ヘリウムよりも高い温度で超電導状態になる高温超伝導物質というものが発見され、今後、この分野では液体ヘリウムは使われなくなると予想されます。
光ファイバー
光ファイバーはファイバーの中心のコアという部分とその周囲を囲む鞘の部分があることによって、光を端から端まで伝達出来ます。光ファイバーの製造の際に、ヘリウムガスを使用します。近年は価格面からアルゴンガスへの転換が増えているようです。
半導体
半導体を製造する際に、半導体物質を形成するために様々なガスを高精度に制御して吹きつけて何層もの膜を形成していきます。その際に、ヘリウムガスが使われます。
リークテスト
気密性が要求される機器の漏れの検査のために使用されます。ヘリウムを封入し、そこに圧力をかけ、一定時間後にヘリウムガスが漏れていなければ、漏れがないと判断できます。通常は窒素ガスで行われますが、高い気密性が要求される場合は、窒素よりも分子サイズの小さいヘリウムが利用されます。
分析
ガスクロマトグラフィーという分析において利用されます。ガスクロマトグラフィーでは不活性なガスと一緒に分析したい物質を細い管の中を流し、分子の大きさによって管から出てくる時間が異なることから、分子を推定することができます。ヘリウムガスは分析試料と一緒に流す担体ガス(キャリアガス)として利用されます。
低温工学
液体ヘリウムは絶対零度(-273℃)に近い温度になります。その極低温の世界における物質の振る舞いを研究し、それを応用するための研究のために用いられます。
溶接
アーク溶接において、酸素や窒素などの大気中のガスと溶接部位を接触させないために溶接部位の周囲に吹きつけるシールドガスとして用いられます。アルゴンガスや炭酸ガスなども使われています。
バルーン・飛行船
ヘリウムガスが空気よりも軽いことを利用して、膨らませると浮く風船に入れてレジャーやエンターテイメントの目的で利用されます。


参考文献

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